2010年12月7日火曜日

『聖の青春』

 たまたま書店で大崎善生の『双子のユーラシア』をみかけた。装丁が目をひいたのかもしれない。平積みだったし。それで手にとりぱらぱらを見ると、何かしら読んでみようかなという気がした。それで、改めて大崎善生について調べてみると、『聖の青春』が出世作とのこと。



 図書館にあり読むことにした。読み出すととまらない。将棋のことは、余り知らない。いや、よくわからない。まして将棋界のことなど全然知らない。日本の囲碁会に比べて将棋界は、若い人が台頭しているのはそのしくみのせいだということずいぶん前に何かで読んだことがある。

 さて、この『聖の青春』は、天才棋士の村山聖(さとし)のことを扱っている。名前も何も知らなかった。羽生と同年代。読み出すと引き込まれた。小さい頃から腎ネフローゼにかかり療養生活を送る。それがすさまじい。そのときに将棋に関心をもつ。将棋の本を読む、そして読む、読む...。それらの知識のもとに指す。はじめてに近い状態で指しても目をみはるものがある。まず頭に知識を入れて、整理して、そして考えて..。いつともしれぬ命をかかえて少年・聖は将棋にのめりこむ。凄い。鬼気迫る。中学時代にプロを目指す。ときの谷川名人を倒すために。限られた命、その寿命まで将棋でというのか。

 人の縁は何だろう。大阪の森棋士のもとに弟子入りする。この森との師弟関係が絶妙というか、なんというか。身体の具合でとぼとぼしか歩けない聖。大阪の地で将棋会館と森のアパート、そして更科食堂のトライアングル。そんな中、森はマージャン、聖は少女漫画と推理小説に気分転換をもとめる。このあたりのオタク面が聖の人をうまく現しているのかもしれない。

 同年代の羽生の強さに触れ、その後、勝ち登りつめる。目標の名人も視野にいれた。身体はぼろぼろ、癌をかかえる。そして29歳で生涯をまっとうする。なんとも壮絶な人生、それなのに何かしらユーモアを感じさせるものがある。

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